弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

書面作成の技術

4  能動態を意識する

    中小企業法務研究会  訴訟戦略部会  弁護士  笹山  将弘 (2014.05)

1   能動態で主語を意識する

法律家は、受動態が大好きです。法律の書籍には受動態で書かれたものが多いからでしょうか。と指摘しつつ、私も早速「書かれた」と受動態を使ってしまいました。とにかく、受動態が大好きなのです。
   例えば、「Aという原則は、判例で認められている」、「民法B条には・・・と規定されている」、「Cという行為は詐欺に該当するため、内容証明郵便にて取り消された」といった類です。受動態のオンパレードなのです。
   では、受動態は、能動態と何が違うのでしょうか。こんな言葉で考えてみましょう。

「ももクロは広く知られている

日常でもよく使う表現だろうと思います。完全に受動態です。文章の内容自体にも全く違和感はありません。

これを能動態にしてみましょう。
   能動態にする場合には、原則として、「Aは・・・をした」という形にしなければいけません。この例だと、「Aはももクロをよく知っている」と書く必要があります。では、Aとは何でしょうか。世界のももクロというくらいなので、世界中の人々?日本人?オタ(その道の人)?個人的には「日本人」辺りでいいような気もしていますが、Aの内容を議論することがここでの目的ではありません。もうお気付きですね。能動態にすることの効能の第一、それは「主語を意識する」ということです。
   裁判で提出する文章の中には、長期間に及ぶ複雑な事実関係を記載することも少なくありません。その際、書き手は事情がわかっているため、主語を意識せずに書いても、違和感なく内容を理解できてしまいます。しかし、裁判所は事情を一切わかっていません。逐一主語を意識した記載にしてあげないと、長文になればなるほど、内容が理解しにくくなります。
   また、主語を意識するということは、文章において、行為の主体を統一して書くことも可能にしてくれます。行為の主体を統一して書かれた文章は理解しやすいものです。A、B、C、Dという人物が登場する文章で、ここはAを主語にして、ここはBで、ここはCで・・・と入り乱れると、文章がすっと頭に入ってきにくくなります。そういった場合には行為の主体(主語)を意識して、敢えてAだけを主体(主語)として文章を書いてみる。そうすると、登場人物が多い文章でも、わかりやすい文章になりやすくなります。

2   能動態で力強さを

能動態の第2の効能、それは力強さです。

受動態:「ももクロは、日本で広く知られている」
能動態:「日本人の大半は、ももクロというアイドルを知っている

なんて力強さでしょう。能動態で書くと、もはやももクロが日本の伝統文化であるかのような印象すら受けます。
   一般的に、能動態は受動態より力強いとされます。キャッチコピー等もインパクトを重視するため、能動態を用いることが多いようです。程度問題な部分もありますが、“能動態による力強さ”、これが第二の効能です。

3   能動態も時と場合を意識して

能動態の効能から逆算すると、受動態には主語を曖昧にして行為や出来事を際立たせる効能、防御的な印象を与える効能があることになります。
   例えば、Aがその日踏んだり蹴ったりの1日だったと言いたい場合等には、「Aはその日、車からは泥水をかけられ、職場では叱られと、踏んだり蹴ったりの1日でした」等と、受動態で、各行為の主語を敢えて意識せずに書いた方が効果的です。何より、受動態を使うことで、文章全体の主語をAに統一することもできますね。
   要するに、何でも能動態にすればよいという訳でもないのです。とはいえ文章作成の視点として、能動態にしてみるということがあってもよいのではないか。それが本稿の提案です。
   ちなみに、能動態にする時には、「・・・である」は控えめにしてください。例えば、「Aが言ったことは、あなたが好きだということである」は能動態ではありますが、「である」を避けようとすると、「Aは、あなたが好きだと言った」となります。後者の方がストレートな表現ですね。「である」は最小限に。