弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

書面作成の技術

  6 不利な事実を隠さず書こう

    中小企業法務研究会  訴訟戦略部会  弁護士  笹山  将弘 (2015.08)

    1   不利な事実は隠してナンボ?

「昨日は帰りが遅かったわね」
「久々に同期と飲んでたからついつい。すいません」
「キャバクラになんて行ってないわよね」
「(う・・・)も、もちろんじゃないか。あんなところはお金もかかるし、ろくなところじゃないって聞くよ。何より君がそばにいてくれながら、若い女性のいる店になんて行く必要すらないからね」・・・@
「そうよね。あたしキャバクラ行く人は嫌いだって言っておいたものね」
「もちろん覚えているよ。君の嫌がることをするわけないじゃないか」
「昨日の同期っていうのは男?あたし女友達と一緒に飲みに行く人も嫌いよ」
「僕の友達や同期には男しかいないよ」・・・A
「そう。じゃあ、その左手の甲にボールペンで書いてある女の名前とハートマークと電話番号は何なのよ!!!」

こうなると、もう修復不能の大ダメージという他ありません。ちなみに、このような妻の詰め方は、反対尋問のやり方としても評価できるものですが、それはまた他の機会に触れさせて頂きます。

不利な事実は隠したいものです。
   ただ、隠したいと思った時には、隠したはずの不利な事実が暴かれる可能性や、暴かれた場合のダメージを慎重に考えるべきです。基本的には、不利な事実は隠さない方が安全でしょう。また、不利な事実を隠さない態度は、訴訟追行上も誠実といった評価をされることが多いと思います。
   先ほどの夫婦のやり取りでも、妻からの「キャバクラになんて行ってないわよね」という問いに対して、「同期がどうしてもって聞かなかったから1時間だけ行っちゃったんだよ。事後報告になってごめんね」とでも言っておけば、修復不能な大ダメージにはならなかったのではないでしょうか。 加えて、 昨日の帰りに妻のためにお土産の一つでも買って帰っていれば満点です。

傍論ですが、嘘つきはよくしゃべる(@の発言)、防御ラインを上げ過ぎると足元をすくわれやすくなる(Aの発言)といったあたりも、文章作成上も日常生活上も教訓になろうかと思います。

2   不利な事実の出し方

(1)  初頭効果と親近効果に注意

文章の最初と最後は、読み手の印象に残ると言われています。
   不利な事実は文章の真ん中あたりに、自然にひそませましょう。

(2)  ぼやかせ

程度問題ですが、主体(主語)をぼやかすと、不利な事実の印象が弱まることがあります。

  • ×   AがBに、「自分にアリバイがある」という口裏合わせを依頼した
  • ○   AとBとの話の中で、「Aにアリバイを作る」という話が出た

また、具体的な事実で書かずにぼやかすというやり方もあります。

  • × Aが、キャバクラ通いがばれたBに対し、フライパンで顔を殴りつけ、全治1週間の怪我を負わせた
  • ○ Aが、キャバクラ通いがばれたBに対し、思わず手を出してしまい、全治1週間の怪我を負わせた

ただ、これらの方法はあまりやりすぎると、結局不利な事実を隠しているのと一緒となりかねません。程度にご注意ください。

(3)  反論をしよう

できれば、不利な事実には反論をセットにしておきたいところです。反論の仕方はいろいろありますが、一見不利に見えるが厳密に見ると不利ではないとか、本件の場合はちょっと意味が違うとか、その辺りに反論の意識を持ってくるといいかもしれません。
   たとえば、「アホか」と言い放って頭をどつくことは、日常生活上では犯罪(不利)ですが、漫才の世界では普通のことだったりします。こんなイメージです。

ちなみに、弁護士の文章は、どうしても相手方との反論のし合いになりがちです。
   しかし、単に相手方の言い分に全て反論すれば裁判に勝つのではありません。相手方の言い分に全て反論できたことは、ようやく自分のマイナスポイントがなくなっただけです。要するにやっと「0点」になったという程度のものと考えた方がいいと思います。
   裁判に勝つには、当方の主張が正しいことを明らかにしないといけません。ですので、「0点」から、プラスのポイントを積み重ねていくという意識が最も重要です。
   反論はメインではなく、サブに過ぎない。このことも忘れてはいけません。

3   隠れた不利な事実への意識

   不利な事実とは、人を殴りましたとか、単に行為として不利と評価できるものだけではありません。通常であればあるはずの事実がないこと。これも不利な事実です。 例えば、契約が成立したと主張している事件で「契約書が存在するが押印だけがない」場合、天ぷらを揚げたと主張している事件で「天かすが全く出ていない場合」等です。主張している事実自体には不利な点がないという意味で、「隠れた不利な事実」 とでもいえるでしょうか。そこへのフォローも忘れずに。 先ほどの例では、「なぜ押印がないのか」、「なぜ天かすが出ていないのか」 等、 異常事態への理由付けをする必要があるということです。